私たちの学会は、昨年8月の橋下徹大阪市長の暴言――「河野談話」について「河野談話は日韓関係がこじれた一番の問題」としてその信憑性を疑う重大な問題発言を行ったこと――に対して抗議声明を行いました。またその暴言を受けて抗議のために来日した日本軍「慰安婦」被害者の金福童さんを迎えて開催された9月23日の証言集会の賛同団体にもなりました。
その証言集会を妨害することを目的にやってきた「在日特権を許さない市民の会」(以下「在特会」)が、集会を守ろうとした市民を相手取って提出した被害届を元にして、あろうことか大阪府警が、2013年2月13日に、集会に参加していた市民4名を「傷害事件」の被疑者とし、主催団体である日本軍「慰安婦」問題・関西ネットワーク、および関係事務所など6ヶ所の家宅捜索を行うという暴挙にでました。さらに翌14日にも関連箇所の強制捜査を行いました。日本軍「慰安婦」問題の解決を求める市民運動への、権力によるこのような不当で許しがたい人権侵害と言論弾圧に対して、当学会は断固抗議します。
また、昨年10月、吉見義明教授が行ってきたこれまでの「慰安婦」問題の研究に関して橋下大阪市長が事実誤認の発言をしたことに対して、吉見教授が発言の撤回と謝罪を求めて大阪市庁を訪れ、面会を求めたにもかかわらず、市長は面会を拒否して抗議を無視しました。私たちは、こうした自分に都合の悪い意見に耳を傾けようとしない市長の頑なな対応が、今回の大阪府警による強制捜査に如実に現れていると考えており、権力をかさに着た市長のこのような姿勢が、市民に対する弾圧をエスカレートさせていると認識しています。
現憲法で保障されている国民の権利の行使に対する府警による「問答無用」の暴挙は、大阪で始まった維新政治がいよいよ露骨に実行支配を始めたことの現われとして、非常に由々しい事態といえます。私たちは大阪から日本の自由な民主主義社会の破壊が進行していくことを強く危惧しており、その進行を防ぐために、多くの人とともに行動していかなければならないと考えています。
私たちは、市長が「慰安婦」問題に関する誤った認識を是正して、政治家としてこの問題に誠実に取り組むことを強く求めます。また日本政府が、現憲法で保障されている市民が平和的に集会を行う権利を保障し、差別や憎悪を扇動する「在特会」の活動に対して国際人権基準に基づく対応を取ることを求めます。
私たちは、学会設立の目的として、「これまでの男性中心の歴史が封じ込めてきた「女性に対する暴力」の究明を通して、支配・従属の権力構造を明らかにしていく」ことを謳い、身近な問題から地球規模の問題まで、個々に問題を提議し合い、討論する場を作ることをめざしてきました。そして、個々人が自由に、主体的に活動していくことを原則に、わたしたちの学会を既成の学会にはない開かれた討論の場にしたいと考えています。こうした趣旨に基づき、1997年の設立以来、内外の「女性に対する暴力」に対して、抗議声明を発信してきましたが、とりわけ日本軍「慰安婦」問題の一日も早い解決に向けて、理論的・実践的に幅広く、また深く取り組んできました。
私たちの権利が蹂躙されているこの事態の深刻さを重く受け止め、これを発信しつつ、今後もともに闘っていくことをアピールします。
2013年3月3日