日本学術会議会員候補の任命拒否に対する抗議声明

 

菅義偉内閣総理大臣は、日本学術会議が第25期新規会員候補として推薦した研究者105名のうち6名の任命を拒否しました。学術会議の推薦を尊重する、これまでの任命の在り方を大きく逸脱するもので、人事への介入というべき重大な事態が引き起こされています。

 

日本学術会議は、先の大戦時に科学者が戦争に協力したことの反省を踏まえ、科学を平和な社会の基礎として位置づけ、人類の福祉に貢献すべく、学術研究を発展させる使命をもって設立されたことはよく知られています。内閣総理大臣の所轄であっても、独立して職務を遂行する機関であり、人文・社会科学、自然科学の各専門分野から優れた研究者が参集し、私たちの社会が直面する様々な課題について議論を深め、提言する役割を果たしています。新たな知、真理を追究することは、時の政府から自律し、広く、多様な視角から学術研究を行うことではじめて可能になります。

 

今回の任命拒否は、そのような学術会議の独立性、自律性を脅かし、「学問の自由」の侵害につながりかねません。任命拒否された6名の研究者に共通しているのは、ここ数年、政府が多くの市民の反対を押し切って次々と成立させてきた法案、「特定秘密保護法」、「安全保障関連法」、「共謀罪」などに反対を表明してきたことです。時の政府に都合の悪い研究や主張を行う研究者の排除を意図していると考えざるを得ません。このことは、学者、研究者だけでなく、市民にも、広く「萎縮効果」をもたらし、「言論表現の自由」、「思想信条の自由」が脅かされる状況になるでしょう。

 

私たち「女性・戦争・人権」学会は、設立当初より、日本軍「慰安婦」問題=日本軍性奴隷制問題を学術的に研究してきました。日本政府に対して、日本軍「慰安婦」問題の法的責任を認め、過去の日本が国家として行った犯罪について、歴史的な検証を経て、その問題と責任の所在を明らかにするよう求めてきましたが、このような研究を行っている研究者に対して、政府与党である自民党の議員が国会という公の場で、研究者を名指しで非難し、「反日で国益を損なうから科研費を支給すべきでない」などと、「学問の自由」を侵す言動を行っています。戦争や軍事化による性暴力の被害女性の尊厳の回復を求め、社会における人権規範の深化に寄与する研究を行う学会としては、今回の学術会議会員の任命拒否に通底する事態が進行していることを深く憂慮します。

 

菅義偉内閣総理大臣に対して、任命拒否の理由を明らかにするとともに、すみやかに6名の候補者を任命することを求めます。

 

2020年10月11日

「女性・戦争・人権」学会

 


<お問い合わせ>

〒602-0898

京都市上京区烏丸通上立売上る相国寺門前町647-20 

 同志社大学大学院 

  グローバルスタディーズ

  研究科内 

 

  岡野八代 研究室

  joseijinkensensou@gmail.com