代表挨拶

 

金友子

 

 この度、本学会の代表に就任することになりました金友子(きむうぢゃ)と申します。秋林こずえ代表の後を引き継ぐには未熟の身ですが、しばらくの間、代表を務めさせていただくことになりました。よろしくお願いいたします。

 私がこの学会を知ったのは90年代後半、ちょうど学会発足の時期でした。91年に金学順ハルモニが実名を出して「慰安婦」であったことを告白し、93年には「河野談話」が出て、「慰安婦」制度への日本軍の関与を日本政府が認めるに至りましたが、その直後から「慰安婦」の存在を否定し、さらには貶める勢力が台頭してきました。日本版歴史修正主義の登場に危機感を覚えた女性たちが、「慰安婦」問題に学術的な側面から、特に思想的な側面から向き合い、その解決――「解決」が何であれ――に貢献するという趣旨で結成されたのが「女性・戦争・人権」学会でした。私はスターティングメンバーの一人である大越愛子先生のもとで修士課程を過ごし、本学会の会員になりました。

 それから約20年が過ぎました。私は、正直言えば、この学会はこんなに長く続くとは思っていませんでした。そして、さっさとなくなるべきだ、と思っていました。なぜなら、この学会がなくなる時とは、すなわち、「慰安婦」問題が(一定の)解決をした時だからです。しかし、そうはなりませんでした。むしろ、状況は厳しくなるばかりです。この学会はまだまだ存在し、頑張らねばならないようです。

 他方でこの学会は「慰安婦」問題に関連する様々な問題、沖縄米軍基地と性暴力、朝鮮戦争時の米軍「慰安婦」問題、平時の性暴力、女性差別に様々な差異が交差して起こる複合差別の問題、歴史とナショナリズムの問題、レイシズム、ヘイトスピーチなど、日本軍「慰安婦」問題を超えて、多様な展開を見せています。こうした問題に真摯に向き合う研究者と活動家が集い、現状や知識、問題意識を共有し、ネットワークを形成する重要な場になっています。この意味で、この学会はまだまだ存在し、頑張らねばならないようです。

 本学会の「代表」を務めさせていただくにあたって、もし私にその適格性があるとすれば、それは、「私はこの学会に育ててもらった」という自覚のほかに、何もありません。「あなたは何に怒っているのか」と、「怒り」が研究の重要な駆動力であることを教えてくれたのは大越先生でした。「怒り」を駆動力として、すばらしい、しかも面白い研究をおこなっている研究者や活動家との出会いをかなえてくれたのはこの学会です。もちろん、学問的には「怒り」だけでやっていくのは無理があり、危険でもありますが…。

華々しい業績もなく、力不足なことこの上ないので、「次は私が育てていく番だ」などという大それたことは言えません。本学会が大切にしてきたことをこれからも大切にしていくことが私の使命かな、と考えています。本学会が皆さまの「活動」の場としてうまく機能していくよう、微力を尽くしていきたいと思います。会員の皆さまのご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します。一緒に「面白い」ことをしていきましょう!

 

(2019年10月27日総会にて)

 

 

 

 

 


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